ブログトップ

ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第3節の3

 無伴奏で、いきなり吹き出したのだ。
 音がデカい!
 馬鹿っ早いフレーズ。ピッチも正確で、一音一音の切れも明確だった。
 信じられない音量とコントロールだ。
 それが二分程続いたかと思うとアルト特有の惚けたような咆吼のまま突然に停止した。
 そして、一八〇度逆のゆったりとしたタメのあるベース・リフが流れだし、シーケンサーのリズムが、それに寄り添った。
 俺は、次第に高まる興奮の内に思った。
 ・・・・何をやる気だ。
 デカイ男がやる気無さそうに、妙に似つかわしいボロボロの緑色のグレッチを、音数少なく弾き始める。しかし、その音は、妙に刺激的にツボを押さえている。だが、それはジャズの音ではないようだ。どうやらこいつも、鍛冶舎タケシと同じ、ヒップポップ系の音が好きなようだな。
 マーク・リボーみたいに巧いじゃないか。
 そう思う間に、曲は派手なフィル・インの後ブレイクし、聴いた事のあるテーマを、アルトとヴァイオリンがユニゾンする。
 それを絶妙の外しで、ギターが煽る。
 俺は一瞬耳を疑った。
 このテーマは、チャールズ・ミンガスの「フォーバス知事の寓話」じゃないか?
 そう、明らかにこのテーマは、あの変態ベーシストが作ったものだった。俺は笑ってしまった。
 シーケンサーは派手な装飾をまき散らしながら、テーマを盛り上げる。アルトとヴァイオリンのユニゾンはお構いなしに、何の感情も入れずに正確にテーマを吹奏する。ベースはますますファンキーにバッキングする。
 だが、二コーラス目、あの少女はアルトから口を外し、マイクに向かって歌い出した。
 ここは、ミンガスが残した数々のライブ番では、フォーバス知事を馬鹿にした歌をオフマイクで歌う箇所だ。
 そこで、彼女はいい加減な英語を適当に組み合わせて歌った。
 ・・・・人工の海岸に、海水浴客を集めるために、沢山の砂が海底から集められた、沢山のお金と共に、ただ、その砂はたった一年でまた同じ海底に戻っていった、とか言う歌で、哀れな奴だよ、フォーバス知事は、と歌った。
 その声は、その年齢と切れ長の目に相応しく、澄んだ、よく通る、銀のナイフの様な声だった。
 ただ俺は、彼女がそんな声をしていることを、全く想像していなかったんだ・・・・。
[PR]
by jazzamurai_sakyo | 2008-02-13 01:00 | 第一話 「黒猫は踊る」