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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第5節の2

 少し気になる点はあった。どんなオリジナルをやっているのか、タメのあるベースと俺のドラムが合うのか、など。
 生中を飲みながら、そんなことを虚ろに考えていると、いきなり、あの露出度の高い姉さんがやってきた。
 「あー、神ノ内さん。今日、観てくれましたあ。私、『癩テラ』の橘ですう。握手ねえ、ブンブン。
 あのう、カオルンがあ、『神ノ内さんって、絶対、お酒好きだよ』って、言うんですけど、ホントですかあ?」
 訊いてるお前がかなり酔ってるぜ。
 「ああ、酒は好きだな。ワリカン負けはしないぜ」
 「ホント?実はうちのバンド、飲む人ばっかりなんですう。カオルンは、時々しか飲まないんですけど、でも、酔っても、あんまり、分かんないんですう」
 ・・・・高校生が飲んじゃいかんな。「あの子って、“カオル”って、名前なんだ」
 「ううん。カオルコ。“藍王薫子”。私は、“橘あゆみ”。ギターは、“瀧上輝広”。ヴァイオリンは、フユミちゃん」
 「ああ、あの子も女の子だったの?」
 「ううん。フユミちゃんは、男の子だよ。“木陰冬美”って、言うんだ。
 ・・・・ねえ、神ノ内さんって、どんな人。支配したい人、されたい人? 支配するのもされるのも嫌な人?」
 おいおい、そんな深い胸の谷間を見せながら、変なことを訊くなよ、と思っていると、ガタイのデカイ男もやって来て、となりにどすんと腰を下ろし、
 「あんた、神ノ内さん? 俺、瀧上輝広。宜しく」
 と、既に酩酊したような口調で言った。ボサボサの前髪の中で目付きは覚めていた。
  “薫子”と言われた女子高生は、丁度、シェアした座敷の反対側の角で、ヴァイオリンの彼と喋っている。その光景は、はっきり言ってPTAの管轄だ。何故制服なんだ。
 「あんたさあ、最近は、あまり叩いていないんだって?」
 不躾に輝広は言った。
 「ああ。叩いてない。まる二年は叩いてない」
 「そんなんでさあ、うちで、やれるんかなあ」
 いきなりそう訊かれるとは思っていなかった俺は、あの姉さんの方を見た。すると、姉さんは、一心に、中ジョッキのおかわりを店員に頼んでいた。
 この攻撃はなんだ? バカにされているのか。
 そんな猜疑心が生まれる反面、この笑うしかない展開に酔わされかけていた。
by jazzamurai_sakyo | 2008-03-12 22:00 | 第一話 「黒猫は踊る」

by jazzamurai_sakyo