ブログトップ

ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第7節の1

     七

 あんな酷い酩酊状態でも、俺は電話番号を交換できたらしい。日曜日の夜、あゆみから電話が入った。
 「おはようございまーす。あゆみでーす」
 「なんで、この番号、知ってる・・・・」
 「えっ。なんでって、私とカミさんの仲じゃない。手帳をご覧下さーい」
 俺のボロボロの手帳には、俺以外の誰かのヘロヘロの字で、「二十二日、午後九時~十二時、京大オルタナ部のスタジオにて初練習」と書いてあった。
 「あー、じゃあ、それあってる。それ、私書いたの。でも、私、書いたという記憶がなかったの。カオルンから電話かかってきて、『確かめておいて』って、言われたの」とあゆみは言った。
 「えっと、連絡無しに一五分以上遅刻した場合は、スタジオ代全額が遅刻した人の支払いになるのでご注意下さい。あっ、次は部室だから関係ないか。でも、カオルンがもの凄く冷たく怒るから、集合時間は守って下さいねん。
 じゃあねえ」と言ってあゆみは電話を切った。
 ・・・・昼間、上の空で仕事を片づけた俺は、その夜、ペダル、スティックケースを担いで、前日、皮を張り替えたばかりのソナーを自転車の荷台に乗せ、京大オルタナ部のスタジオに向かった。
 スタジオとは名ばかりの、京都大学に幾つかある軽音部の部室の隣室を改造した部屋だ。
 ・・・・そこは学生の頃、一度使ったことがある。
 鍛冶舎タケシと練習した時に使ったから、迷わなかった。
 着いた時には、まだ前のバンドが練習していた。ハードコアな感じのバンドだった。練習開始時間の十分前になっても、誰も現れないし、前のバンドの練習も終わらなかった。
 やっと五分前に、輝広が、ギターとテナーを持って現れた。
 「おはよう」と奴は言い、そのままスタジオのドアを開けて、まだ練習しているバンドの中に入っていった。それを見て、前のバンドは演奏を止めた。輝広は、ギターを弾いていたガタイのデカイ、モヒカンの兄さんに「スミマセンネ」と言い、その兄さんは、「ああ、スマン」と言って、機材を片付けた。
 「今日は『癩王』の練習じゃないの?」とベースの長髪のイタリア人みたいな兄さんが聞いた。
 「いや、そうですよ。ああ、この人、今度入るかもしれないドラムです」
 「宜しく」とだけ、俺は言った。
 スタジオは以前来た時と同じく、埃っぽくて、ビールの空き缶と焼酎の瓶がアンプの上に並び、そして薄暗かった。
 前のバンドのメンバーと輝広が話していた内容から察すると、どうも、輝広は京大の学生の様だ。俺は、聞くともなくドラムのセッティングをしていただけだが。
 前のバンドが帰り、セッティングは終わった。
[PR]
by jazzamurai_sakyo | 2008-04-16 00:00 | 第一話 「黒猫は踊る」