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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第8節の1

     八

 何度か、練習してみて分かったこと。
 みんなが持っている楽器は何故か全て古いこと(俺もそうだが)。ただし、楽器の手入れはこまめにされていること。
 あゆみはとても配慮のある、暖かいバッキングをする。ただし、しばしば破壊的な勘違いをする。彼女以外は、他人の裏をかく演奏の方が好きなこと。
 輝広のテナーは習得途上だが、奴のテナーさえ除けば、四人は、やたら上手いということ。ただし、技術は常には陳列されず、一瞬の爆発(時に暴発)の時に、瞬間、凄まじいレベルで表現されること。
 時間がないにもかかわらず、練習はあまりせっぱ詰まったものではなかった。過去の経験で、かっちりした練習しかしたことのない俺は、このまとまりのない練習に最初は戸惑った。
 だが俺は、『南蛮』の時のように、メンバーの音に細かく口出しして、音をまとめてしまうような、昔の自分流でやるのは止めることにした。何故なら、予測のつかない音の流れに付き合って、時には煽り、時には無視して突っ走ったり、暴走に付き合ってやったりするのが、楽しくて仕方なかったからだ。
 アンサンブルがマトモに機能することは本当に稀なのだけれど、上手く行く瞬間はとても美しかった。
 そして分かったのだが、高校生の薫子と冬美は、全く金に困ってなかったが、学生の輝広とアルバイトのあゆみは、何時もあまり持ち合わせがなかった。
 そして俺は、ライブ直前練習の後、スタジオ近くのロック・バーで、あゆみと輝広にタカられていた。あの、ガタイのデカイ、モヒカンの兄さんがやっている店で、やたら器がデカくてなみなみと注いでくれた。
 「ねえ、カミさん、宮坂さんのこと、覚えてる?」
 「誰、それ?」
 「あー、やっぱり、覚えてないよ、この人」
 「あんた、この前の打ち上げの帰り、エレベーターで一階に下りた所で、思いっきり殴ってたじゃないか」
 「それでお返しに、お腹蹴られてたじゃない?」
 「俺の腹を蹴った? 次の日になっても腹の痛みが消えなかったのは、そのせいか。俺は、あゆみが実はテコンドーでも習ってたんだと思ってた」
 「んな訳ないじゃん。筋肉ついちゃうじゃん?」
 「既に胸にいっぱい付いてるじゃん?」
 そう言った瞬間、輝広は鼻先に右手のグーを入れられた。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-05-07 18:42 | 第一話 「黒猫は踊る」