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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第9節の1

     九

 五月三日、『The End of North』で、『癩王のテラス』はリハーサルをしなかった。三回目の練習で、「これ以上、この曲をやったら、本番でテンションが殺がれる気がする」と薫子が言ったからだ。
 午後八時開演。前回と同じ、二十四時終了予定。俺は今回、誰にもチケットを売らなかった。イベントのタイトルは、「ジャズ・ジャンク・スタイル」。・・・・まあ、前のイベントの二回目っていうことだ。
 『癩王のテラス』の出番は午後十一時で、集合時間は午後七時。俺達は開場前ミーティングの後、『The End of North』の上に立っているラブ・ホテル『Sex Sleep Eat Drink Dream』の一室にいた。
 「前から思ってるんだけど、出演時間ギリギリの集合じゃダメなの」と、冬美はベッドにしなだれかかりながら、少し眠そうな声で言った。ピタリと張り付いた黒のフレッド・ペリーの襟元がはだけている。
 この広いスワッピングルームを控え室代わりにシェアしたのは冬美で、理由は「あんなヤニだらけの場所(『North』のこと)にヴァイオリンを置いておけない」からだった。
 「冬美ちゃんは、例えば自分の企画したイベントに参加要請した人が、他の参加者も観ずに自分の出る時間にだけ来て、すぐ帰ったら、多分切れるでしょ?それに私は、聴いておきたい人もいるし」と、あゆみは、落ち着いた声で言った。
 「まあね」冬美は素直に言った。「まあ、良いけど」
 薫子は、例のこすれた赤耳のリーヴァイス五〇一で、籐のカウチに足を組んで座り、アルトを拭いていた。リード板をくわえた唇と、深紅のノースリーブに包まれない白く薄い両肩は、少し微笑んでいるように見えた。だが、化粧っ気のないその顔は、何か、楽しむのを自制した様にも見えて、儚げだった。
 ・・・・俺は、この間、あまり薫子と話していなかった。話すのはもっぱら練習時間だけで、練習の後、彼女と冬美は何時もすっと帰ってしまう。
 “まあ、高校生だしな。夜更かしは、親が怒るだろう”と、俺は練習の後で、例の如くあゆみ、輝広と飲んでいる時に言ったことがある。
 “カオルンに両親はいないよ”とあゆみはグラスを見つめて言った。“残された家に独り暮らし。家政婦のおばちゃんが週に3回来るくらい”
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by jazzamurai_sakyo | 2008-06-04 00:50 | 第一話 「黒猫は踊る」