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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第9節の2

 “両親がいない?死んだのか?”
 “そうみたい。ただ、理由までは詳しく知らないの”
 “話したくないんだろうな”
 “違うの。訊けば話してくれそうなんだけど、話す時の口調が何か自嘲的で、それを見るのが辛いんだ”と、あゆみは言い、それ以上は言わなかった。
 「・・・・神ノ内さん。何か私の顔に変な所でもあるの?」
 薫子に言われて、俺は慌てて目を逸らせた。
 「いや、別に・・・・。薫子は、出る時はメイクしないのか?」
 「薫子にはメイクなんか要らないよ。睫毛バサバサの二重のぱっちりツリ目、頬は真っ白、唇は血を舐めたみたいなんだから。その上に何か塗ったら、魔女だよ」と冬美が言った。
 「まあ、したこともないし」薫子は、抑揚無く言った。
 「お前ら、どっちもどっちだろ」輝広はクロスにフィンガーイースを軽く吹き、それでフレットを拭きながら言った。
 「最後、確認だけど、私、やっぱりソロしなくちゃいけないのよね」
 「・・・・あのね、この期に及んで、まだそんなこと言ってんの?」輝広の手が止まって、あゆみを睨んでる。
 「だって、即興って苦手なんだもん」
 「あゆみちゃん、がんばってね」冬美はウインクして見せた。
 「うーん・・・・」
 冬美以外のメンバーは、時折下に降りて対バンを観た。冬美は二時間ほど寝ていた。
 「こいつ、煙草は大嫌いなくせに、自分の知らない人間がセックスしたベッドで寝るのは気にならないのかねえ」と輝広は言った。
 『癩王のテラス』の前のバンドが始まったのは、丁度十一時で・・・・、まあ、四十分程度押してるってことだ。
 十一時三十分、あゆみの携帯が鳴った。「そろそろ来てって。結構、入ってるみたいよ」
 「そう言っても、『North』じゃ詰めても七十人位だろ」そう言って、ギターのケースだけを抱えて立った輝広は、よく見たらこの前と一緒の服だ。あゆみは、ストライプの入った、OLの勝負スーツみたいな黒っぽい上下を着て、パンプスを履くのを手間取った。下着の上に直接着たのか、胸の谷間の闇が深い。
 「・・・・まあ、“クール”にね」俺も三点セットを抱えた。
 「ふふ」と笑って、薫子は素足にコンバースを履いて、部屋のドアを閉めた。
 ・・・・確かに『North』のフロアーは、前、俺が初めて来た時よりも詰まっていた。
 濃厚な煙草の匂いと、薄暗いライトのせいで、視界はあまり利かず・・・・。誰だ。かなりモノの良いハッパの匂いが強烈にする。その匂いが漂い来る方を見ると、今日は出演する予定がないはずの鍛冶舎タケシがいる。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-06-11 00:28 | 第一話 「黒猫は踊る」