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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第9節の3

 “なんだ?何故、いる?”
 鍛冶舎は、少しゆるんだ口元に上手く丸めたハッパを喰わえながら、フレームの小さな伊達メガネの奥で、鋭くつり上がった一重まぶたの目を、俺に向けているように見えた。独特な細く長い指が、広い掌の中でルー・リードのようにそれを包んで、赤い光点を描いている。
 久しぶりのライブで少し緊張を抱えていた俺としては、会いたく無かった人間だ。だが、“ええい、今日はツマランことを考えている暇はない。”
 俺は、意識を遮断して、ドラム周りをセッティングした。
 ふと、俺の右前方のあゆみを見ると、濃厚にラメ入りの口紅を塗った唇が動いている。
 “私の、前に、宮坂さんがいるよ”
 そして、強めに縁取った目が宮坂を見た。
 俺は、傲然としている奴に目で挨拶してやった。
 セッティングに一番時間がかかるのは、俺だった。冬美が、 “ドラムもちゃんとチューニングしてよね”というからだ。
 「そろそろ、良い?」と薫子の紅すぎる唇が動いた。薫子は今日、自分のアルトのピックアップ・マイクをラインにつなげるだけだから、楽なもんだ。
 “良いよ”しかし、このトップシンバルは鳴らないな。
 そして、あゆみはマイクに向かい、「こんばんは。『癩王のテラス』です」と言い、言い終わるが早いか、薫子のアルト・サックスは『The End of North』の空気を切り裂いた。
 無伴奏で、早いフレーズを紡ぎ続ける。生音で十分な音量と、正確なコントロールで。そして、それを今日は一分程続けた所でいきなり停止した。
 少し出を戸惑ったが、ゆったりとしたタメのあるベース・リフが流れだした。そして、俺は、慣れた手つきでフォービートを叩き始める。意識してわざとらしく、トップシンバルをスウィングさせた。鳴らないから余計に粘っこいファンキージャズ風のビートが出来上がった。元輝のギターも芝居がかったバッキングだ。
 そして、俺は大きくフィルインした。アルトとヴァイオリンが、あの癖の強いテーマを正確にユニゾンする。俺は笑いたくなるのを押さえられなかった。
 不機嫌そうに観ていた宮坂の表情は、テーマが流れ出した瞬間、明らかに凍り付いた。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-06-18 01:10 | 第一話 「黒猫は踊る」