ブログトップ

ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第10節の2

 一旦、ブレイクしてから、予め決めておいたフレーズのフィルを俺がぶち込んで、テーマに帰る約束だ。マイクをつけたアルトの薫子は余裕で、ステージに帰りながらテーマを吹いた。
ふと見ると、次のソロの輝広は、ピックアップ・マイク付きのテナーを喰わえて、にやりっと笑っていた。
 “あっ、やられた”と、一瞬、俺は思った。何処から持ってきたんだ。今日はギターしか持ってきてなかったじゃないか?等と、考える間もなく、俺はテーマの最後を処理した。
 その瞬間に、輝広のテナーは馬鹿でかい音で、猥雑に遠吠えした。そして、何時の間にか備え付けのピアノに薫子は座っている。あゆみと冬美は俺を振り返りながらステージを降り、にやにやと笑っている。
 輝広の、殴りつける様なソロが始まった。
 増幅されたそれは、ただの暴力的なノイズだ。そこに、薫子は、不協和音をゴンゴンとぶち込んで来る。
 暫し、俺は考えたが、“その方向で来るならそれで、俺も一度やって見たかったんだ”と考えを切り替えた。
 俺は、トップシンバルからフリーなパルスを打ち込み始めた。最初は、スネアも控えめに、戸惑った様に。輝広は、容赦なく音の固まりをゴロゴロと出し続けた。
 だが、所詮は習得中だ。輝広がネタに躊躇した瞬間を狙って、俺は鋭くフィルをぶち込んだ。続けて、バスドラムとスネアを激しくロールして、フリーのビートを強烈に出してやった。
 その瞬間に、一番前で観ていた奴らは仰け反った。
 輝広は、一瞬、“しまった”という顔をしたが、以前にも増して、デカイ音で吹き続ける。そして、次からは俺が付け入る隙がないように、薫子が騒乱をフォローする。
 俺は、出来る限り同じ手癖を繰り返さないように気を付けて、バリエーションに変化を付けてフリービートを叩き続けた。
 それが絶頂に盛り上がった時、突然ヴァイオリンとベースが、オクターブ違いのユニゾンで、「フォーバス知事の寓話」を解体したようなマイナーなメロディーをゆっくり奏でた。荒れ狂うノイズの汚濁の中を漂う、ヴァイオリンのクールな美しさに、俺はくらくらした。
 “こいつら、狂ってる”
 そう思い出した時、輝広は赤い顔で俺を見返した。合図だ。ヴァイオリンのフレーズがテーマを導いて、輝広は最後の遠吠えを決める。俺がオンタイムでフィルインし、テーマに帰った。そのテーマの間中、輝広はテナーから口を外し、地声で何か怒鳴っていた。
 さて、次はベース・ソロだ。
[PR]
by jazzamurai_sakyo | 2008-07-02 01:33 | 第一話 「黒猫は踊る」