第一話 「黒猫は踊る」 第11節の1
十一
テーマを演奏していた時に、ふとフロアーを見ると、鍛冶タケシは殆ど同じ格好で立っていた。乗ってもいないが、出ていってもいないということは、何か奴にとって美味しい部分があるのだろう。
宮坂は・・・・、この展開に少し疲れた顔をして呆然として立っていた。おいおい、お前のメインディッシュは、これからだぜ。
薫子のソロ・パートのネタは予め決めてあった。
“私は、そのままやって欲しい”と彼女は言った。
“そのままって”冬美が怪訝そうに訊いた。
“レコード通りの雰囲気っていうか・・・・”
“六〇年代の黒人解放運動ジャズってヤツだな”と輝広がちゃかした。
“私、ミンガスみたいなウォーキング、長くは無理よ。フォービートなんか、それ風にしか弾けないんだから・・・・”あゆみは不安げだった。
“あゆみちゃんは、最初の方だけ、全体の雰囲気を造ってくれたらいい。ワンコーラスだけでも・・・・。後は、神ノ内さん、4ビートを出してくれますよね”
出してはやるが、“慣れたくないから、私のソロの練習はしたくない”と言われた俺は、実は、ここからが一番不安だった。
練習で薫子はあまりアルトを吹かず、スタジオ備え付けのキーボードばかり弾いていた。
グルーブが合うのか、合わないのか、全く分からなかった。
・・・・テーマが終わる。俺は、トップシンバルを控えめにスウィングさせる。ベースはウォーキングしている。
薫子は、意外にもすっと入ってきた。整ったフレーズだ。輝広は上手くカウンターメロディーを入れる。
まっとうなジャズだ。ただ・・・・、薫子のフレーズには、全く黒っぽい所がない。
あれ、そう言えば、この曲が入っているレコードは数枚持っているが、ドルフィーがこの曲を吹く時、ドルフィーを黒いと思ったことがあっただろうか。
薫子に最初に会った時、彼女は「You don’t know what love is」を吹いていた。俺はそれを聴いて、“まるでエリック・ドルフィのようだ”と思ったが、今、同じことを感じている。
それは何故なんだろう。扱っている素材が似通っているだけで、フレーズの組み立て方とか、スタイルが似ているという訳ではないのに・・・・。
テーマを演奏していた時に、ふとフロアーを見ると、鍛冶タケシは殆ど同じ格好で立っていた。乗ってもいないが、出ていってもいないということは、何か奴にとって美味しい部分があるのだろう。
宮坂は・・・・、この展開に少し疲れた顔をして呆然として立っていた。おいおい、お前のメインディッシュは、これからだぜ。
薫子のソロ・パートのネタは予め決めてあった。
“私は、そのままやって欲しい”と彼女は言った。
“そのままって”冬美が怪訝そうに訊いた。
“レコード通りの雰囲気っていうか・・・・”
“六〇年代の黒人解放運動ジャズってヤツだな”と輝広がちゃかした。
“私、ミンガスみたいなウォーキング、長くは無理よ。フォービートなんか、それ風にしか弾けないんだから・・・・”あゆみは不安げだった。
“あゆみちゃんは、最初の方だけ、全体の雰囲気を造ってくれたらいい。ワンコーラスだけでも・・・・。後は、神ノ内さん、4ビートを出してくれますよね”
出してはやるが、“慣れたくないから、私のソロの練習はしたくない”と言われた俺は、実は、ここからが一番不安だった。
練習で薫子はあまりアルトを吹かず、スタジオ備え付けのキーボードばかり弾いていた。
グルーブが合うのか、合わないのか、全く分からなかった。
・・・・テーマが終わる。俺は、トップシンバルを控えめにスウィングさせる。ベースはウォーキングしている。
薫子は、意外にもすっと入ってきた。整ったフレーズだ。輝広は上手くカウンターメロディーを入れる。
まっとうなジャズだ。ただ・・・・、薫子のフレーズには、全く黒っぽい所がない。
あれ、そう言えば、この曲が入っているレコードは数枚持っているが、ドルフィーがこの曲を吹く時、ドルフィーを黒いと思ったことがあっただろうか。
薫子に最初に会った時、彼女は「You don’t know what love is」を吹いていた。俺はそれを聴いて、“まるでエリック・ドルフィのようだ”と思ったが、今、同じことを感じている。
それは何故なんだろう。扱っている素材が似通っているだけで、フレーズの組み立て方とか、スタイルが似ているという訳ではないのに・・・・。
by jazzamurai_sakyo
| 2008-07-16 16:08
| 第一話 「黒猫は踊る」