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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第11節の2

 そんなことをふと考えながら、俺は薫子に合わせていった。
 薫子は決してアルトにノイズを交えない。アルトサックスが楽器として持っている、一番クリアーな音を鳴らしている。
 薫子は客席に背を向けて、俺の方を向きながら、目を閉じて吹いている。
 アルトは次第に、早いパッセージを紡ぎ出す。感情に流されない音だ。タンギングの切れが凄い。音の粒質にバラツキがなく、一音一音が凄い存在感だ。時々、パンパンパンパンとリードが鳴った。・・・・どんな舌をしてやがる。
 俺は、本当はリード奏者を煽らなければならない立場なのに、切り込まれる快感に身を預けそうになる・・・・。
 ふと見ると、二コーラス終わった所で、あゆみが弾くのを止めている。輝広も・・・・。冬美を含めて三人は、ステージの上で、俺と薫子のデュオを聴いている。
 俺は何時しか、薫子の音を味わうばかりになっている。薫子は、冬美の様には、俺が自分を取り戻す瞬間を与えてくれない。
 冷たく、それでいて甘い、包容に捕らわれていく・・・・。
 その時、俺の視界の中に、鍛冶舎が煙草に付ける炎が見えた。
 その瞬間、俺は少し覚めた。そして気付いた。
 俺と薫子は、グルーブが合い過ぎている。こんなに、ハマる演奏者と一緒にやったことは一度もなかった。
 そう気付いて初めて、“このままじゃ、やばい”ことが理解できた。俺自身が、彼女のシーケンサーになってしまう。
 そして、輝広と冬美の醒めた視線にも気が付いた。
 あゆみは、グルーブに身を預けつつ、心配そうな顔をしている。
 ・・・・ああ、ごめんごめん。お前ら、そんな顔しなくても大丈夫。俺は、俺だから、ね。
 そして俺は、薫子がフレーズを再構成する瞬間を待つ。対峙するだけの、コントロールできる意志が戻ってきた。
 俺は、薫子のフレーズに、違うアクセントのフィルを乗せ、切り込む様にスネアを鳴らした。
 おい、自分だけで遊んでないで、俺の音をもっと聴けよ。
 一瞬の間を捉えて、俺は三連のバスドラを大きく入れて、スネアとクラッシュを突き刺した。
 薫子は、目を開けて俺を見た。瞳が真っ黒に俺を射抜く。
 そして、マウスピースから離された唇が、動いた。
 “イキマショウカ”と。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-07-23 21:32 | 第一話 「黒猫は踊る」