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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第11節の3

 そうだね。
 薫子は、ロングトーンの、美しいフレーズを唱って俺を待つ。その瞬間、俺は区切りのつもりで硬くて大きなフィルを入れた。
 そして、その直後から、俺達は、それまでとは次元の違うフォービートの中にいた。
 そのビートはあくまでもオン・タイムのフォービートだ。
 でも、明らかにスウィングしていない・・・・。こんな全くタメのない硬質のビートを、フォービートと呼べるのか?
 だが、俺のドラムは、今まで俺が聴いたことのない程、“唱って”いた。
 それも恐ろしいテンションで。
 そして、そのテンションを薫子がきりきりと加速させる。
 それでも、俺と薫子は、熱くはならない。
 意識がどんどん覚めていく。
 今までライブしてきて、こんなに恐ろしいスリルを味わったことはなかった。こんなに厳しい覚悟をしたことも。
 一瞬でも躊躇したら、一瞬でも妥協したら、俺は薫子に喰われてしまうだろう。そして、俺は抜け殻になり、音楽は腐敗するだろう・・・・。
 こんなに冷たくて、イキっぱなしのスリル。
 俺は薫子の全てを自分の近くに寄せ、全てを見ている。
 きっと、彼女も同じように感じているだろう。
 俺は、こんなに自分に近い音を聴いたことはない。そして、俺はそれを一瞬のうちに育み、そして惜しげもなく殺す。
 薫子のアルトは同じフレーズを決して繰り返さない。何にも譲歩しない。
 俺達は、裏切り続けながら、寄り添う。
 お互いの仕掛けは、お互いを裏切りながら、次の扉を一緒に開けさせる。
 次から次へ、俺達は違う世界に行く。
 俺は“名状しがたい自由”を感じていた。
 そうだ。黒猫は言った。
 “形式の中であろうと、自由でいることはできる”と。
 “誰にも名付けることのできない解放と神秘を探すんだ。
 君は必ず、それに抱かれることができる”と。
 今、この瞬間、瞬間がそうなのか。
 俺は目を閉じた・・・・。
 中空を舞う黒猫。その一瞬を思い出す。
 俺の記憶の中で、奴が弧を描いて落ちていく一瞬は、長い時間だった。奴を追う、赤い飛沫。
 異なったバリエーションの、長いパッセージが、鋭く、高速で奏でられた。
 血の存在感。正確な音の飛沫達。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-07-30 22:25 | 第一話 「黒猫は踊る」