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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第11節の4

 “彼はもう生きていないのよ”と儚い顎が動いた。
 消え逝く、パッセージ、美しすぎる、黒猫の背。
 ビロードの手触りの、漆黒の闇。
 俺は奴を抱いていた。
 / 死んでいた魂を抱いていることしかできなかった。
 少女は奴を川に流した。
 / 再生のために。
 アルトは、ただ単純に美しく鳴っている。
 アルトが、こんなに明るくて、悲しい音をした管だと、今まで、知らなかった。
 きらきらと輝く河面、流される桜の花弁。
 橋の下の暗闇。
 匂い立つ生と、暴力的な死。
 それら全てだ、お前は。薫子。
 俺とお前は、共に創造する解放と神秘を共有できるだろうか・・・・。

 そう思った瞬間だった。
 タムを叩くはずのスティックが空を切り、次いで右足が抵抗無く前につんのめった。
 目を開くと、宮坂がドラムセットを前に引き倒している。
 ステージのライトの影の中で、一瞬見えたその目は、真っ赤だった。
 すぐに元輝が、奴の腕を引き寄せる。宮坂はそれを振り解いて、クラッシュシンバルのスタンドも引き倒した。
 輝広がその左頬を殴り、奴は尻餅を付いた。
 主催者の眼鏡の男が飛んできて、宮坂の肩を抱き、奴に何か言ってる・・・・。あゆみも、その前に立って、宮坂を見ていた。
 薫子は・・・・、虚ろな目をして俺を見ていた。
 俺は、ドラム椅子に座ったまま、足を組み、壁に背を凭れた。そして、薫子の顔を見ていた。左目の下の小さなほくろを。
 言わなければならないことは、何もなかったけど、俺の唇は動いた。“タノシカッタナ”と。
 薫子の目は何時もの覚醒を取り戻し、紫煙の中で儚い顎がコクンと小さく頷いた。そして、あゆみに何か言った。
 あゆみはマイクに向かい、「ありがとう。これで終わります。『癩王のテラス』でした。
 これから、私たちは異世界に行きます」と言って、スタンドからマイクを外し、そのまま座り込んでいる宮坂の前にしゃがんで頭を撫でてやった。
 そして、「乗り遅れたからって駄々こねないでね」と、マイクに向かって冷たく言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-08-06 01:05 | 第一話 「黒猫は踊る」