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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第2節の1

     二

 「お疲れさまです。二時間で、千二百円です」
 「明後日の日曜日、同じ時間帯に、また個人練習を予約したいんですけど」
 「十二日は・・・・、スミマセン。開けから夜まで、全部詰まってます。十一時から十二時までなら、空いてるんですが」
 「・・・・いや、いいです。月曜日、今の所、空いてる時間は?」
 個人練習は、前日にしか予約できないのが面倒くさい。
 「夜は、・・・・まだ空いてますね。明日、電話下さい」
 「ありがとう」俺は、三点セットを抱えて、スタジオを出た。
 空気が湿っぽい。早く帰らないと、やばいな。
 苛つきながら、俺はマウンテンバイクのスタンドを蹴った。
 ・・・・五月三日のライブ以後、『癩王のテラス』は練習をしていない。連休明けに、あゆみからの電話で練習の日程を知らされるはずだったが、知らされたのは練習の延期だった。
 「延期の理由は? 薫子は何か言ってなかったか」
 「考えたいことがあるからって。後は、自分で訊いてみたら」
 「・・・・あゆみ、訊いてくれよ」
 「何?恥ずかしいの?」
 「女子高生となんて、あまり喋ったことがないからな」
 「この前のライブで濃密に喋ってたじゃない・・・・。
 まあ、いいわ。今から、あの店で奢ってくれたら、訊いてあげても、いいけど」
 「十時過ぎてるぜ」
 「春の夜はこれからよ」
 それから俺達は、あのモヒカンの兄さんの店で、少しだけ飲んだ。その時、あゆみは、他の三人のことを少し話した。
 薫子の両親は薫子が中学生の時に、事故で亡くなっているらしい。父親は開業医だった。今、薫子は、親の遺産、生命保険金、診療所の賃貸費用で生活している。家は、「医者の割には大きくないけど、一軒家。家の中でサックスを鳴らしても、文句は言われたことない位」の広さだという。
 冬美は、ある会社の社長の息子だという。母親似の冬美は、父親から溺愛されて育った。ヴァイオリンは三歳から習っていて、コンクールの常連だというが、あゆみはそれがどんなコンクールだか知らなかった。
 輝広は、広島県出身で京大の院生。学費は奨学金、生活費は家庭教師のバイトで稼いでいる。だから、部屋は吉田山の安下宿。サックスは大学に入ってからで、練習は西部講堂の前。 ギターの練習は、アンプにヘッドフォンを突っ込んで。
 「あまり言わないけど、時々、カオルンにご飯奢ってもらってるみたいよ」
 「嘘だろ」
 「その代わり、準夜漬けで試験のヤマを教えるんだって」
 「なんだ準夜漬けって」
 「カオルンは試験の前日であろうと、深夜までは勉強する気はないそうよ。周りからバカにされない程度の点数があれば良いんだって」
 薫子と冬美の高校生活は、どのようなものなのだろう。
 ・・・・恐らく、居心地は良くないに違いない。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-10-08 23:22 | 第二話 「青い光」