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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第5節の2

 俺の混乱を斟酌したかのように、歌はサビに入る前にブレイクして、ピアノとフルートがユニゾンしてメロディーを挿入する。そして、何か吹っ切れた様に、薫子はサビを歌う。
 その繰り返しが終わる瞬間の「間」、右のヘッドフォンの奥の遠くの場所で、「キーッ」と、車の急ブレーキの音が聞こえた。
 その瞬間、場面は鮮やかに転換され、、薫子が息を吸い込むために、唇を開く音が聞こえた。 その瞬間のテンションの高さに、俺は打ちのめされた。
 そして、フルートのソロが、流れ出した。イコライザーで高音を切っているからなのか、エコーのかかり具合が幻想的だ。音数を少なくして、叙情性の排除された冷たいメロディが、正確にコントロールされる。タンポが開く音まで計算しているとしか思えない。
 フルートは、ピアノが演奏を止めた後も、少しだけ続いた。
 ・・・・薫子から渡されたテープを最初に聴いた時のトリップは、そんな感じだった。
 あのミーティングの夜、薫子と冬美が帰ってから、残された三人は、少しだけハッパをやった。
 楽しいパーティーだった。数本のロウソクを灯して、美味いチョコレートを食べ、静かに音楽を聴き、のんびりと春の空気の中に澱んだ。
 余程居心地が良かったのか、あゆみが三時頃にウトウトとしたから、俺は輝広とあゆみに「泊まっていくか。キメている時に外を歩くのは、危ないぞ」と声を掛けた。
 そして、寝間着を出してやり、歯を磨かせて、二階の部屋に寝かせた。
 「この寝間着、オンナモノだけど、私、着て良いの?」
 「ああ、・・・・いいよ」
 「気にしないで、借りといたら?」
 輝広は軽く流して、歯磨き粉をあゆみに渡した。
 「これ小さいから、なんか違うの貸して。
 ・・・・何時も思うんだけど、ホント、歯磨き粉はハッパとは合わないわ」
 それから俺は独り、ミルクたっぷりのコーヒーを入れ、軽い醒めかけの頭にヘッドフォンをして、テープを聴いた。
 続けて、五回聴いた。それ以来、一体何回、俺はこの曲を聴いただろうか。キメて聴いたのは、最初の夜だけだったが。
 「青い光」という言葉が意味する薫子のビジョンは何なのだろうか。テープを聴きながら、何時もそう考えていた。
by jazzamurai_sakyo | 2008-12-17 23:00 | 第二話 「青い光」

by jazzamurai_sakyo