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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第7節の3

 「少し練習して、つなぎをスムーズにすれば、このアレンジは、この曲に合っていると思う」
 そう言って、輝広は、もう一度テープを巻き戻した。
 「芝居がかっていて、少し恥ずかしいかなあ。それに、こんな曲を演奏したら、他のバンドから絶対にウクよ」あゆみは少し心配そうだった。
 「いいんじゃないか。ウクくらいの方が」輝広がテープを再生する。「どうせ、何演ったって歓迎はされないだろう。昔の顔だけで出させてもらうんだから。
 だが、何時までもクラブ系ジャズのイベントばかりに出る訳にもいかんだろう。パンク系のバンドとか、色々な音の対バンと演る機会が出てくるだろうし、そうでないと面白くもない。閉店イベントに出るバンドとも対バンする可能性はあると思う。その挨拶代わりには、丁度良い曲に仕上がると思うけどな」
 ・・・・輝広は、俺の言いたいことを殆ど言ってしまった。
 「練習は後一回だな」俺は最後に言い残したことを言うと決めた。
 「歌詞書けないか、薫子。これ、歌詞がないとダメだ」
 みんなが薫子を見た。
 「・・・・そうね。やってみます。ぶっつけ本番になるかもしれないけれど。でも、この構成聴いてたら、なんか曲のイメージがハッキリしてきました」
 薫子は、強い目をして言った。
 「最後の主旋律はヴァイオリンが弾くんだよね、たぶん?」
 冬美は少し戸惑った様に言った。
 「そのつもりなんだけど、ダメかな?」と、俺は冬美を見て言った。
 「この曲は薫子の曲なんだから、僕ばかり目立っても、・・・・どうなんだろう?」
 珍しく歯切れの悪いことを言う。ただ、俺はこの構成を作るために、練習テープを何度も聴き返して、冬美のヴァイオリンで締めたいと思っていた。
 「冬美ちゃん、弾いてよ」薫子が突然言った。「そうしないと、多分、この曲は終わらないわ」
 そう言った薫子を、冬美がきつい目で見返した。
 その冬美を、薫子も強く見返した。・・・・が、口の端に、笑みがあった。
 「ね?」
 「私も、その方が締まると思うな」と、あゆみが言った。
 「・・・・分かった。その代わり、薫子、歌詞は絶対に書いてよ」
 「・・・・うん。分かってる」
 「じゃあ、思い切りクールに、お願いします」
 俺は掌を合わせた。
 「さて、構成を大体頭に入れたら、煮詰めようか。
 そう言えば、誰だっけ。『スタジオでの編集は作曲の延長だ』って言ってたのは」と、輝広は伸びをしながら言った。
 それはフランク・ザッパだとは、畏れ多くて言えなかった。
by jazzamurai_sakyo | 2009-01-21 06:57 | 第二話 「青い光」

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