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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第8節の5

 「学校って、同じ高校なのか」俺は訊いた。
 「同級生で、同じクラスなんです」薫子はしれっと言った。
 「なんなんだよ、オマエは。大体、おかしいと思ったんだ。何で聞いたことも無い名前のバンドが私らの前なのかって。何で此処に入り込んだ?」
 「リズム隊が、少し前の馴染みでね。僕が頼んだの」と坂本さんがフォローする。
 「最近までドラムがいなかったから、この箱には合わないと思って、控えていたのよ。本当は前から出たかった」
 「『シャク王のテラス』なんて、変な名前付けやがって」
 「・・・・YAE、違う違う、あれは“ライ”って読むんだよ」
 男の子三人の内の、メガネをかけた奴がフォローする。
 「え、癇癪のシャクだろ。私は漢字、得意だぞ」
 「違う違う、“ライ”だよ」
 「・・・・何だよ“ライ”って」
 「病気の名前だよ。ハンセン氏病の別名で、・・・・古い、差別的言い方で、あまり良い言葉じゃないよ」
 「そのハリセンってなんなんだよ。知らないぞ」
 俺は笑った。「薫子、君、学校が楽しそうで、良かったな」
 「・・・・誰だ、この性格の悪ソーなオッサンは?」
 「うちのバンドのドラマーで、神ノ内さん」
 「こんにちは。薫子が何時もお世話になってます」
 俺は深々と頭を下げた。
 「・・・・こんなオッサンと何演るのか知らないけど、しょうもない演奏しやがったら、乗っ取るからな。私らにとって、ココで最後のライブ演るには、時間が足りないんだよ」
 うーん、いい目だ。ぎらぎらした初期衝動が押さえられないのだろう。パンクを演る奴は、こういう目をしていないと。
 それに、ちょっと丸めだが、可愛い子じゃないか。
 「どうぞ。でも、良い感じ演奏の時は邪魔しないでね。前のライブで、良い感じの所を何故か邪魔されてね。二度は嫌なの。次、そんなことされたら、私何するか分からないから」
 「・・・・“underground garden”のラストだぜ。坂本さんの顔つぶすようなショボイ演奏したら、殺すからな」
 「私も、曾根崎さんのバンドの演奏が下らなかったら、ミキサーの電源を落としますから。
 ところで、坂本さんと神ノ内さん、何をニヤニヤしてるのでしょうか」
 あ・・・・、ばれた?
 「え、君達があんまり可愛いもんだから」と俺は言った。
 「いやー、良いなあ。女子高生バンド対決か。楽しみだなあ」と言った坂本さんの口元も、激しく緩んでいた。
 「・・・・このエロオヤジどもがっ」YAEは吐き捨てた。
 薫子の、オヤジ達を見る目は、冷酷で凍て付いていた。
by jazzamurai_sakyo | 2009-02-25 00:32 | 第二話 「青い光」

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