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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第9節の2

 「この箱に顔出すの、久し振りとちゃうの」
 合間に、缶ビールを買いに入口に出た俺は、鍛冶舎タケシに発見されてしまった。レジは少し混んでいる。
 「・・・・此処でライブを観るのは、四年ぶりくらいかな」
 「神ノ内君のバンド、最初の頃だけやもんな、此処に出てたの。後は、街中のキレイな箱ばっかりやったんちゃう?」
 よく憶えてるな。お前は、俺には興味なかったくせに。
 「・・・・そう。僕は好きだったんだけどね。他のメンバーが演りたがらなくて」
 「僕も、最近は出てへんわ。・・・・今日のバンド観たら、分かるやろ」
 こんなバンドと対バン組まされても、削がれるばっかりで、無駄や、という声が聞こえて来そうだった。
 そうだろうな。鍛冶舎には、合わないだろうな。
 「・・・・この前の、『癩王のテラス』は、酷かったな」
 鍛冶舎は、ハイ・ライトに火を点けながら言った。
 「なんぼ上手でも、練ったもん見せられへんかったら、あれでは、客から金もらえへんで」
 ・・・・俺は、黙っていた。言っていることが正しいからだ。
 「まあ、最後のサックスとドラムのデュオは面白かったけどなあ。・・・・それにしても、相変わらずカッチカチのリズムやね。神ノ内君は」
 「・・・・そうか。大分、ダレてきたと思うけど」
 「全然変わってへんわ。正確で、冷たい鉄筋みたいな音や」
 そう、お前の大嫌いな、な。
 「明日は、ちゃんと練ったものを聴かせるよ。じゃあ」
 俺はそれだけ言って、暗い客席に紛れた。
 ふと見ると、ステージから一番奥のミキサーの前に、腕組みをして立っているYAEを見つけた。ミキサーを照らす暗いスタンドの明かりが、彼女の少し丸い頬を照らしていた。
 意思の強さが、眉間に現れていた。自ずと周囲から浮いて、目に付いた。この前は、観ずに帰ったから、明日が楽しみだ。
 相変わらず平板な音が続く。だが、俺は最後まで聴いた。
 同じように最後までいたYAEの思いが、俺と同じな訳はないだろうが・・・・。
 そう言えば昨日の、最後の練習の中休みに、薫子がみんなに進行表を見せた時、あゆみは「 “White Heat”の次なの?」と言って、露骨に嫌そうな顔をしていたが、あれは何だったのだろう?
 それと、最後に練習したテイクで、冬美がエンディングのテーマを一人中断して、ヴァイオリンを顎で挟んだまま、キツイ目をして一点を凝視していたことが気になっていた。
by jazzamurai_sakyo | 2009-03-11 00:32 | 第二話 「青い光」

by jazzamurai_sakyo