十五
冬美は帰る時まで機嫌が悪く、毒を吐いていた。輝広は言葉少なだった。きっと二人は、半身を盗られたように感じていたのだろう。俺だって、今、こいつ等をステージ下から見上げるのは、あまり良い気持ちがしないと思う。
全体の軽い打ち上げの後、薫子と輝広は、深浦翁と井能さんをつれて飲みに行った。
俺とあゆみは、寺町御池の「Bar紫煙」に行った。俺は薫子達と一緒に行きたかったんだが、少しブルーなあゆみが帰ると言い、薫子が「今日の歌、良かったんだから、バンドの時もオリジナルを歌うように、あゆみちゃんに言っておいてもらえますか」と頼まれて、あゆみを誘ったのだ。
土曜の夜だというのに、客はまた、俺達だけだった。
不意にあゆみが言った。「明日の日曜の夜、空いてる?」
「ああ」
「大阪ブルーノートのチケットがあるのよ」
「誰のライブ?」
「知らない。カミさん知ってる?」
あゆみは手帳からチケットを出す。
「ああ、和製Chick Coreaみたいな奴だろ。こんなチケット、どうしたの」
「別れた彼がくれた。私、彼と別れちゃった」「・・・・そう」
「別れてって、私から言ってやった」「そう」
「予約してたからって、くれたの」「そう」
「今の職場、辞めるつもりないから、彼との関係は、まあ、ちょっとキツイけれど。
私は、今までの自分とはサヨナラしなきゃね」
「仕事は手伝ってやったら。でも、甘やかすのは止めとけよ」
「そうするわ・・・・」
俺は突っ込んで聴くつもりもなく、あゆみもそれ以上言わなかった。
「あ、そうだ。さっきカオルンからカミさんにって、預かったんだけど。これ、この前の“underground garden”の閉店ライブ・イベントの時のオムニバスCD。坂本さんが人数分くれたんだって」
「・・・・ダサイな、このジャケット。二枚組?」
「裏見てよ。ちょっとびっくりするわよ」
冬美は帰る時まで機嫌が悪く、毒を吐いていた。輝広は言葉少なだった。きっと二人は、半身を盗られたように感じていたのだろう。俺だって、今、こいつ等をステージ下から見上げるのは、あまり良い気持ちがしないと思う。
全体の軽い打ち上げの後、薫子と輝広は、深浦翁と井能さんをつれて飲みに行った。
俺とあゆみは、寺町御池の「Bar紫煙」に行った。俺は薫子達と一緒に行きたかったんだが、少しブルーなあゆみが帰ると言い、薫子が「今日の歌、良かったんだから、バンドの時もオリジナルを歌うように、あゆみちゃんに言っておいてもらえますか」と頼まれて、あゆみを誘ったのだ。
土曜の夜だというのに、客はまた、俺達だけだった。
不意にあゆみが言った。「明日の日曜の夜、空いてる?」
「ああ」
「大阪ブルーノートのチケットがあるのよ」
「誰のライブ?」
「知らない。カミさん知ってる?」
あゆみは手帳からチケットを出す。
「ああ、和製Chick Coreaみたいな奴だろ。こんなチケット、どうしたの」
「別れた彼がくれた。私、彼と別れちゃった」「・・・・そう」
「別れてって、私から言ってやった」「そう」
「予約してたからって、くれたの」「そう」
「今の職場、辞めるつもりないから、彼との関係は、まあ、ちょっとキツイけれど。
私は、今までの自分とはサヨナラしなきゃね」
「仕事は手伝ってやったら。でも、甘やかすのは止めとけよ」
「そうするわ・・・・」
俺は突っ込んで聴くつもりもなく、あゆみもそれ以上言わなかった。
「あ、そうだ。さっきカオルンからカミさんにって、預かったんだけど。これ、この前の“underground garden”の閉店ライブ・イベントの時のオムニバスCD。坂本さんが人数分くれたんだって」
「・・・・ダサイな、このジャケット。二枚組?」
「裏見てよ。ちょっとびっくりするわよ」
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by jazzamurai_sakyo
| 2011-07-06 08:30
| 第三話 「紫の指先」